高血圧症
どのような病気か
高血圧症(高血圧)は、血管内の血液が通常よりも高い圧力で流れる状態を指します。これは一般的に「サイレントキラー」と呼ばれ、症状がほとんどないため、患者さんが気づかないことがあります。しかし、放置されると心臓病や脳卒中などの重大な健康リスクを引き起こすことがあります。
高血圧症の患者数は日本では現在約4000万人と推定されており、これはわが国の人口の約3割を占めるという、最も高頻度にみられる生活習慣病です。
高血圧症の定義
高血圧症は通常、寝室期血圧で収縮期血圧(心臓が血液をポンプするときの血圧)が140mmHg以上、拡張期血圧(心臓がリラックスするときの血圧)が90mmHg以上、家庭血圧で135/85mmHg以上を指します。ただし、高血圧の診断は複数回の測定によって行われ、安静時の測定値が基準値を超える場合に確定されます。早期治療により、動脈硬化を予防できますし、既に糖尿病・脂質異常症・肥満・心血管病などの疾患をお持ちの方も治療を受けることで大きな効果が得られます。
「高血圧治療ガイドライン2019」日本高血圧学会から引用
高血圧症の原因
高血圧症(高血圧)は、以下のようなさまざまな要因によって引き起こされる可能性があります。
1.遺伝的要因
高血圧は、家族歴に影響されることがあります。親や兄弟姉妹が高血圧であると、自身もそのリスクが高くなる可能性があります。
2.生活習慣
高塩分の食事、肥満、運動不足、喫煙などの不健康な生活習慣は、高血圧のリスクを増加させる要因となります。
3.ストレス
長期間のストレスや不規則な生活、過度のストレスは、血圧を上昇させる可能性があります。
4.基礎疾患
他の健康問題や疾患、例えば腎臓病や内分泌系の異常なども、高血圧の原因となることがあります。
5.睡眠時無呼吸
睡眠時無呼吸は、睡眠中に一時的に呼吸が停止する状態です。これは高血圧の原因となる可能性があります。
6.年齢
年齢が上がるにつれて、血管や心臓の機能が低下し、高血圧のリスクが高まります。
7.飲酒
過剰なアルコール摂取は、高血圧の原因となることがあります。
8.睡眠不足、カフェインの摂取、特定の薬物の使用
高血圧を引き起こす可能性があります。
高血圧症の原因は複雑であり、一つの要因だけではなく複数の要因が組み合わさっていることがあります。適切な治療と生活習慣の改善により、高血圧のリスクを低減することができます。
原因から見た高血圧症のタイプ
原因の観点から高血圧症を分類すると、以下の二つに分かれます。
本態性高血圧症(原発性高血圧)
本態性高血圧症は、特定の原因によって引き起こされるものではなく、一般的な高血圧のタイプです。遺伝的要因や生活習慣の影響などが関与しています。高血圧症の約9割は、この本態性高血圧症です。
症状性高血圧症(二次性高血圧)
症状性高血圧症は、他の疾患や状態が原因で高血圧が発生する場合に見られます。例えば、腎臓病(→腎性高血圧)、ホルモンの異常(→内分泌性高血圧)、睡眠時無呼吸症候群などが引き金となることがあります。服用している薬が高血圧を誘発しているケースも度々見られます。
高血圧の症状
高血圧(高血圧症)は、しばしば「沈黙の殺し屋」と呼ばれる状態であり、症状がほとんどない場合があります。しかし、以下のような症状が現れることがありますので、自己チェックや定期的な健康診断が重要です。
頭痛やめまい
頭痛やめまいが頻繁に起こる場合、特に朝起きた時や身体を動かした後に悪化することがあります。
息切れや動悸
身体的な活動やストレスによって、息切れや動悸が感じられることがあります。
視覚障害
急激な視覚の変化や視野の狭窄、視力の低下などが現れることがあります。
めまいや吐き気
突然のめまいや吐き気が起こることがあります。
その他の症状
高血圧の症状は、個人によって異なることがあります。また、症状が現れないこともあります。そのため、定期的な血圧測定や健康診断が重要です。
緊急を要する症状
高血圧が原因で発生する緊急を要する症状として、頭痛やめまいが突然激しくなる、言葉が理解しにくい、片方の体の筋肉が麻痺するなどが挙げられます。これらの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診してください。
高血圧の症状は、慢性的なものであり、長期間放置すると重大な合併症を引き起こす可能性があります。定期的な血圧測定と医師の診断を受けることで、早期発見と適切な管理が可能です
高血圧症の合併症
高血圧症(高血圧)は放置されると、さまざまな重大な合併症を引き起こす可能性があります。どれも動脈硬化が原因です。
1.心臓病
高血圧症は心臓への負担を増加させ、心臓病のリスクを高めます。これには、心筋梗塞、心不全、不整脈などが含まれます。
2.脳血管障害(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)
高血圧症は脳の血管にダメージを与え、脳卒中のリスクを増加させます。脳卒中は、脳の血流が一時的または永久的に阻害されることによって起こります。
3.腎臓病
高血圧症は硬くなって縮んだり(腎硬化症)、尿にタンパク質が出続けるようになったり(慢性腎臓病)して、腎臓の代謝機能が低下します。これにより、腎不全や透析の必要性が生じる可能性があります。
4.眼の障害
高血圧症は、網膜血管にダメージを与え、視覚障害や失明のリスクを増加させることがあります。
高血圧の治療
1.血圧測定
血圧手帳をお渡ししますので、測定・記載を行う習慣を持ちましょう。自宅で血圧を測る習慣を持つと、常に血圧に注意が向くようになり、健康を維持する意識向上につながります。
2.ライフスタイルの改善
食事の見直し
食塩摂取量の制限やバランスの取れた食事
食塩制限:6g/日未満
野菜・果物の積極的摂取
適正体重の維持:BMI
適度な運動
軽強度の有酸素運動を毎日30分、または180分/週以上行う
減酒
エタノールとして男性20~30ml/日以下、女性10~20ml/日以下に制限
禁煙
禁煙を強く推奨、状況によって禁煙外来へ移行して頂きます
3.薬物療法
・降圧薬の服用: 医師の指示に基づいて、降圧薬を処方します。血圧を安定させるために、定期的な薬物療法が必要です。
4.定期的なフォローアップ
・血圧モニタリング: 定期的な血圧測定を通じて、治療効果を確認し、血圧を安定させます。
・健康診断: 必要に応じて、定期的な健康診断や検査を受けることで、高血圧の合併症の早期発見や管理を行います。
5.生活習慣の継続
長期的な取り組み: 高血圧の治療は一過性ではなく、生涯にわたって継続的な取り組みが必要です。
高血圧のコントロール目標
高血圧(高血圧症)のコントロールは、個々のリスク要因や合併症の有無に応じて異なります。以下は、リスクに準じた血圧のコントロール目標の一般的な指針です。
1.一般的な目標
血圧の目標値: 一般的な成人の場合、収縮期血圧(最高血圧)を140mmHg未満、拡張期血圧(最低血圧)を90mmHg未満に維持することが望ましいとされています。
2.リスクに基づく目標
・心臓病や脳血管障害のリスクが高い場合: 血圧の目標値は、収縮期血圧を130mmHg未満、拡張期血圧を80mmHg未満に設定することが推奨されます。
・糖尿病や腎臓病の合併症がある場合: 血圧の目標値は、収縮期血圧を130mmHg未満、拡張期血圧を80mmHg未満に維持することが推奨されます。
高齢者や脳卒中の既往歴がある場合: 血圧の目標値は、個々の状況に応じて医師と相談し、適切な目標を設定します。
診察室血圧 (mmHg) | 家庭血圧 (mmHg) | |
高血圧の診断基準 | 140/90以上 | 135/85以上 |
降圧目標(mmHg)
75歳未満の成人 脳血管障害患者 冠動脈疾患患者(両側頸動脈の狭窄や脳主幹動脈動脈の閉塞なし) CKD患者(尿蛋白陽性) 糖尿病患者 抗血栓薬服用中 |
<130/80 |
<125/75 |
75歳以上の高齢者 脳血管障害患者(両側頸動脈の狭窄や脳主幹動脈動脈の閉塞あり、または未評価) CKD患者(尿蛋白陰性) |
<140/90 | <135/85 |
当院でどのように外来通院して頂くか
・併存症や喫煙などを基に、血圧・体重減量・禁煙など管理目標を設定します。
・管理栄養士による食事内容の確認、栄養指導(塩分など)を行います。 →
・血圧手帳をお渡しし、自宅での血圧(起床後1時間以内と就寝前)を測定頂きます。
・定期的に行う検査
血液検査・尿検査
併存症の有無、お薬の副作用を確認する目的で半年~1年に1度血液・尿検査を行います。健康診断・人間ドックの結果で代わりも可能ですので適宜ご持参頂きます。
心電図・胸部X線
1年に1度定期検査として行うことをお勧めします。胸部エックス線検査は、喫煙者には年2回実施することもあります。
睡眠時無呼吸の簡易検査
治療抵抗性の高血圧の場合、肥満がある場合、日中倦怠感がある場合など、睡眠時無呼吸の簡易検査を考慮します。→
頸動脈の超音波
高血圧による動脈硬化性病変が進行していないか、1~2年に一度定期検査を行います。
・安定すれば数カ月間隔での通院に移行することも可能です。